俺には、4つ下の妹がいます。
妹が産まれたときは、お兄ちゃんという立場が物凄く嬉しくて、いつも妹のそばに居たような記憶があります。
天然パーマで髪はクルクル、眼はパッチリしてて、凄く可愛かったんですよ。
妹が初めて立ったときに、母親と父親と「立ったね、立ったねぇ!」って、大喜びしたのを今でも覚えてます。
そんな、何処にでもあるようなごく普通の家族の生活が流れて行くのかなぁと思っていたのですが、やっぱり人生って山あり谷ありなんですよねぇ。
俺が中学1年の1学期、親が離婚しました。
中学1年という年頃からすると、親が別れるという出来事が物凄くショックで…。
がむしゃらに泣いて
「別れないでよっ!」
って一生懸命引き止めました。でも
「お前も大人になったら色んな事情が分かる。今は辛いけど、我慢しろ。」
と言われ、泣きじゃくる俺を静めようと必死な父親。
「大人の事情なんてどうでもいいよっ!」
と、まだ中学1年の俺は、家を出る母親の手を
「行かないでっ!」
と力一杯引っ張りました。
その時、母親に
「真弓をお願いねっ。」
と、言われて自分の事だけで必死だった俺は、妹の存在にハッと気付き、周りを見渡しました。
妹は、テレビを見てました。
この頃、妹は小学3年生。
多分、いつもの夫婦喧嘩にしか見えていなかったんでしょう。
数日後に、妹が
「お兄ちゃん。お母さん、遠くに出掛けたから帰ってくるのがすっごく遅いって、お父さんが言ってたよ。」
「…。」
物凄く辛かったです。
そして、物凄くかわいそうで切なくて…。
多分、父親が、まだ訳も分からず事情を理解できない妹に話をしたんでしょう。
それからは母親の居ない生活が始まり、最初の頃はショックや寂しさから、人と話す元気も無く学校も何日か休んだりもしました。
妹は特に今までと変わらず小学校へ行ったり友達と遊んだり。
時間が経ち、寂しいという気持ちは心の中に有るのですが、徐々に母親の居ない生活に慣れていく自分が居ました。
そして、高校3年のある日。
当時中学2年の妹が、真面目な顔で話をしてきたんです。
「お兄ちゃん…私、学校でイジメられてる。もう、嫌だ…」
「…」
妹は優しさからか、心配をかけたくない、迷惑をかけたくないと、周りに気を使うタイプの人間で、あまり人に弱いところを見せたがらないんです。家族にさえも。
そんな、妹が泣きながら胸の内を明かした事にビックリしました。
しかも、父親では無く俺に。
多分、母親もおらず、父親は仕事で帰ってくるのが夜。
今思えば、一番話しやすく身近な存在が俺だったのかなぁ…?
参観日や面談、PTAの集まりの時に母親の代わりに祖母が出席していたのですが、それを見たクラスの生徒達が「一人だけ婆ちゃんが来てる~」とか「母親が居ないんだってよ~」とかで、コソコソと噂話が始まり、そこからイジメに発展していったみたいなんです。
今思えば、中学、高校と、部活・友達・彼女等に明け暮れて、妹の事はほったらかしでした。
妹がどれだけ寂しくて、孤独で、辛かったことか…。
なんか、すっごく悔しくて…自分に。
今更ですが、お兄ちゃんらしい事をしてやりたいと思い、イジメを知った数日後、当時の担任の先生の所へ妹を連れて相談に行きました。
先生に言えるだけの事は、俺なりにぶつけました。
勿論、妹のイジメを解決する事が第一の目的だったのですが、何だか、自分が妹に何もしてやれてなかった悔しさまでも一緒にぶつけたような気がして…。
妹は、職員室でずっと泣いてました。
それから数年が経ち、俺は結婚することに。
籍を入れて数日経ったある日、妹から結婚祝いが届きました。
気を使わなくて良いのに~と思いながら封を開けると、手紙が。
『お兄ちゃん、結婚おめでとう!私がイジメられてた時、お兄ちゃんが中学校まで一緒に来て先生に話してくれたときはすっごく嬉しかったです。今でも、あの時の事はハッキリと覚えてます。私も早く結婚したいなぁ~、まずは相手を探さなくちゃね。私はお兄ちゃんみたいな優しい人と結婚するのが夢です。お幸せに~』
お兄ちゃんみたいな優しい人と結婚するのが夢…
新婚間もない俺は、嫁さんに泣き崩れる所を見られたくなかったので、二階の寝室に駆け込み、声を殺して思いっきり泣きました。
嬉しさと、何もしてやれなかった悔しさと、色んな感情が涙になって出てきました。
その手紙は俺の『宝物』です。
そんな妹は今、ワーキングホリデーでカナダのバンクーバーに居ます。
元気でやってるかなぁ?
と思い、先日カナダの妹に電話をしました。
「あっ、お兄ちゃーん!久しぶり~。今ね、ルームシェアで色んな国の人達と部屋を分けあってアパートで生活してるよ。みんな、お兄ちゃんみたいな人ばっかりで、楽しいよぉ~!」
妹よ…
人として、大きくなったなぁ。
一人で海外に行き、一人で宿を探し、一人で学校を探し…
正直、今の俺にはそんな度胸は無い、感心するよ。
アパートも、お兄ちゃんみたいないい人達が集まってるみたいで安心したよ。
「でね、特にアメリカ人のジョンがお兄ちゃんそっくりなのぉ~!ヒゲの密度も生え方も、顔の濃さもぉ~!」
妹よ…
今、お前がヘラヘラ話している事は、見た目の話か?お兄ちゃんみたいな人達ばっかりって、内面的な部分ではなく外見的な部分なのか?
そんなはずは無い。
国際電話は聞き取りにくい的なニュアンスで
「えっ?なになに?」
と、聞き返す。
「だから、ジョンってアメリカ人がお兄ちゃんにそっくりなのっ。ヒゲの密度も生え方も、顔の濃さも。笑ったときに歯茎がむき出しになるのは、ちょっとキモいけどね~。しかも、黒人だよ~!」
妹よ…
中学時代にいじめられていた事をもう忘れてしまったのか?
今、お前が兄にしている事は言葉の暴力、すなわちイジメだ。
「多分、ジョンがサングラス掛けたら、お兄ちゃんと見分けがつかないかもっ!」
妹よ…
ジョンと結婚しちまえ。
お兄ちゃんみたいな人と結婚するという夢はすぐに叶うぞ。
「それとね、バンクーバーからアメリカは近いから、この前LAにも旅行に行ったんだよぉ~。そしたらねLAにも、お兄ちゃんみたいな黒人の人がいっぱい居たよっ!めっちゃウケるよね~!」
妹よ…
二階の寝室で流した大量の涙を返せ。
「LAで、お兄ちゃんそっくりの黒人の家族が居たから写真撮ったよぉ~!メールで送るねっ!」
妹よ…
もういい、黙れ。